セミナー情報

平成14年度「第6回セミナー&相談会」報告

 恒例となったセミナー&相談会。今回は各管理組合の役員が頭を悩ます「ペイオフ」問題に焦点を絞ってセミナーが開催されました。はじめに、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士でもある足立亜僖子さんに「ぺイオフとは何か」をテーマとして、資金保存の様々な手段についての長所短所などの解説をしていただきました。続いて住宅金融公庫大阪支店まちづくり融資課の横井聡輝さんが住宅金融公庫のマンション修繕債券積立制度を紹介。そしてマンション問題に詳しい弁護士の丸橋茂さんが「管理組合役員の権限と責任」について講演しました。  今日はペイオフ対策として、どんな選択肢があるか、それにはどんなメリット、デメリットがあるかということを中心にお話ししたいと思います。まず、ペイオフについておさらいします。
 金融機関が破綻すると、「1,000万円を超える元本とその利息等については、破綻金融機関の財産の状況に応じて支払われますので一部カットされることがあります」ということになっています。金融機関は預金者が預けている預金に対して、一定の率をかけた保険料を預金保険機構に納めています。これは1,000万円までの預金を払い戻してくれるという保険です。
 金融機関が破綻しますと、預金保険機構は債務超過額を計算して、預金のカット率を決めます。つまり1,500万円を預金していた場合、1,000万円と、それを超える500万円に分けて考えます。そしてカット率が30%と決まると、1,000万円と、500万円が30%カットされた350万円の計1,350万円が払い戻されるということになります。
 海外銀行や日本銀行の海外支店の預金は保険の対象になりません。また、口座を細かく分けていても「名寄せ」ということが行われ、1預金者につき1,000万円と、その残りはカットされた額が払い戻されることになります。一方、その銀行に借金があった場合は預金と「相殺」することができます。マンション管理組合の預金も一般と同じあつかいです。ただ、預金の名義が理事長さんだった場合、「権利能力なき社団」として認められれば、理事長さん個人の預金とは別にされ、1,000万円までの元本と利息は保障されます。
 さてペイオフ対策として、どのような方策があるか検討しましょう。「資金を1,000万円ずつ複数の金融機関に分散する」。これならすべての資金を守ることができます。しかし、少額ならともかく管理は難しくなります。次は「2003年3月まで、定期預金を普通預金へ一時避難させる」です。2003年3月までは普通預金は全額保護されます。しかし、それ以降は同じです。3番目は「郵便局の郵便振替口座を活用する」です。これは全額を国が保障してくれます。しかし、利子は付きません。
 4番目は「格づけの高い金融機関に預け替える」です。「つぶれないだろうな」という金融機関にお金を集めることです。預金残高が多いと優遇を受けられることもあります。しかし、絶対大丈夫という保障はありませんから、格付け、自己資本比率、預金量の推移、株価などを監視して、経営が悪化してきたなと思えば、すぐに預金を引き揚げられるようにしておかなければなりません。
 5番目は「貸し金庫に入れる」です。安全ですが、利子は付きません。6番目は「積立火災保険」です。積立火災保険は定期預金より金利は高いのですが、保険会社がつぶれれば減額されるのは銀行預金と同じです。損害保険会社のチェックが欠かせません。また、いくつかの保険会社から見積もりを取って比較することも大切です。
 次は「国債・地方債を買う」です。償還まで持ち続ければ国や地方自治体が支払いを保証してくれます。しかし途中で売るとなると、市況によって元本割れということもあり得ます。8番目は「保護預かり専用の金融債を買う」です。債券を銀行が保管するもので、1,000万円とその利息は保障されますが、途中で解約すると手数料を取られます。金融機関によって商品名が違うので注意が必要です。
 ペイオフ対策には、これが一番良いという方法はありません。ペイオフを気にする前に、もっと重要な問題があります。管理組合の預金の名義が、理事長さんの名前になっているのかどうか。管理組合の中には、管理会社の名義になっているというケースがかなりあるようです。管理会社がつぶれてしまったら、このお金はまず返ってきません。
 ただペイオフについては、これからもいろんな動きが出てくると思います。機敏に動けるように常にアンテナを張っておいてほしいと思います。  最近、株主代表訴訟が増えています。株主が経営者の責任を問うために訴えるという事件ですが、管理組合でも役員が違法行為をすれば訴えられるのか、そんな認識が出てきたのではないかと思います。そこで、株式会社との比較で管理組合役員の責任について考えたいと思います。
 株式会社の役員、機関は4つあります。代表取締役、取締役、取締役会と株主総会です。管理組合は区分所有法で、管理者と集会の2つだけです。法律上で言えば、集会の決定事項以外は、管理者(理事長)が勝手に決めていいことになっています。しかしそれでは理事長さんも組合員も不安でしょうから、理事さんを何人か選んで理事会を作り、大事なことは理事会で決定するということになっているんです。ただし、理事さんの権限については法律上は何の規定もありません。
 株式会社の代表取締役には代表執行権、業務執行権というものがあります。代表権というのは「俺が会社なんだ」と言える権利のことです。つまり社長は事実上、対外的には何をやってもいいということになっています。それはマンンションの管理者も法律上は同じです。しかし、内容は全然違います。
 株式会社なら会社運営のために遠隔地の土地を買うこともありますが、管理者はマンションの共用部分の管理のためにある機関です。マンション以外の遠隔地の土地を買うということはあり得ません。管理組合はその目的が制限されているので、その制限を越えていれば無効になります。 会社と役員の関係は「委任」ということになっています。この場合、民法644条に「善良なる管理者の注意義務を負う」ということになっています。これを「善管委任」と呼びます。管理組合の理事さんには、特別な決まりはありませんが、民法の規定を準用するということになっていますので、この「善管委任」による義務が生じるということになります。つまり、委任された以上は、いいかげんなことはせず、仕事を一生懸命にやらなければならないという義務があるということです。ただし「あの理事長や理事が気にいらない」「能力がない」という理由で、更迭されるということはありません。管理組合の役員が不正なことをした場合、それを是正する手段は限られています。管理組合が役員を訴えることはできます。区分所有法では集会で原告となる者を指定できると規定しています。理事長さんを訴える場合でも、集会での決議が必要です。
 ところで、お金が使われてしまった後に、役員に対して直接賠償請求というのは管理組合の場合は難しいといえます。管理組合の場合、露骨な背任行為、横領がなければ、責任を追求されることはないと考えていいと思います。  マンション修繕債券は毎年1回公庫が募集する、利付の10年債で「マンションすまい・る債」と呼んでいます。10年間継続的に購入いただく積立債です。今年は、7月2日から10月11日まで郵便で受け付けています。1口100万円で45,000口、450億円を募集していますが、口数の制限はありません。
 特徴は「元本確実保証」です。2番目の特徴は「国債並みの運用利率」、年平均1.396%の利率です。3番目は途中換金されても、元本割れのリスクがないことです。国債なら市場動向によって元本割れのリスクもありますが、この積立債権は、第1回の債券購入から1年以上経過していれば、公庫が全て買い戻します。また、途中でやめたことに対するペナルティはまったくありません。
 住宅金融公庫は独立行政法人に移行することが決まっていますが、その債権、債務は適切に継承されることになっていますので、まったく心配はありません。