判例教室

子供が廊下を走ったり跳んだりする音が、階下の居住者の社会生活上受忍すべき限度を超えているとして、損害賠償請求が認容された事例/東京地判 平成19年10月3日

東京地判平成19年10月3日(判タ1263号297頁)

●事件の概要
Yの長男がY住戸を走り回ったり跳んだり跳ねたりする音(本件音)が、ほぼ毎日、50〜65dB程度、午後7時以降、時には深夜にも階下のX住戸に及ぶこともしばしばあり、長時間連続したこともあった。
Yは、XがY住戸を訪ね話し合った際には「これ以上静かにすることはできないので、文句があるなら建物に言ってくれ」と乱暴な口調で突っぱね、Xの妻がYと会った際に「静かにして下さい」とYに頼んでも「警察でもどこでも行けばよい、どうせ理事会では何もしてくれないのだろう」と言うなど、Xの申入れに取り合おうとしなかった。
管理組合は、Xの申入れに基づき、日常の生活音について配慮することを求める内容の書面を掲示板に掲載したり本件マンションの各戸に配布したりしたが、Yによる改善はなかった。
Xは、やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり、精神的にも悩み、Xの妻には、咽喉頭異常感、食思不振、不眠等の症状も生じた。
XはYに対し、騒音の差止め及び損害賠償を求める旨の調停を求めたが、Yはこれに応じず調停不成立により、調停は終了した。
そのため、XからYに対し、本件音が受忍限度を超えていると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用の支払いを求めた。
●問題点
Yの長男が住戸を走り回ったり跳んだり跳ねたりする音(本件音)は、一般社会生活上、階下に居住するXが受忍すべき限度を超えていたか否か。
●判決内容
判決は、ほぼ毎日本件音がX住戸に及んでおり、その程度はかなり大きく聞こえるレベルであり、時には深夜にもX住戸に及ぶことがしばしばあり本件音が長時間連続してX住戸に及ぶこともあったことを指摘し、「Yは、本件音が特に夜間及び深夜にはX住戸に及ばないようにYの長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、XのYがそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであった」と述べました。そして、YがXに対して、「これ以上静かにすることはできない、文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり、Xの申入れを取り合おうとしなかった」という事実につき、「その対応は極めて不誠実なものであった」と評価しました。
そして、判決は、特にYの住まい方や対応の不誠実さを考慮した結果、「本件音は、一般社会生活上Xが受忍すべき限度を超えるものであった」と述べ、XのYに対する損害賠償請求として慰謝料30万円及び弁護士費用6万円の支払いを命じました。
【判決の意味】
マンションの騒音につき、生活音が他の住戸に聞こえれば直ちに違法というわけではありません。マンション内の騒音問題で、その騒音が違法と評価され不法行為を構成するか否かについては、受忍限度論という理論が採用されています。これは、一般社会生活上受忍すべき限度を超えているか否かを基準に、超えていれば違法と評価する基準です。裁判では、当該騒音が受忍限度の範囲であるかどうかが争われることになります。
本判決は、子どもをしつけるなど住まい方を工夫し近隣からの申入れに対し誠意ある対応を行うべきであり、Yの対応が不誠実であったことを、Xの受忍限度を超えたことの理由として強調している点が特徴的であり、受忍限度を超えた近隣騒音トラブルの一事例として参考になります。
ひとことコメント
本裁判例の事案のYが、仮に、Xからの申入れに対し誠意ある対応をしていたのであれば、Xの精神的な負担は軽減されたでしょうし、判決においてもXの受忍限度を超えないという判断がされた可能性があります。そもそも、仮にYが誠意ある対応をしていたのであれば、Xは訴訟提起する必要はなかったかもしれません。 近隣住民同士で相手を思いやり良好な関係を築くことが重要だと、再認識できる裁判例です。
なお、本件と同様に、上階の騒音が階下に対し違法と評価された裁判例として、東京地判平成24年3月15日(判時2155号71頁)等も併せて参考にしていただければ幸いです。
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