マンションライフにおいて発生する様々なトラブルを未然に防ぐためのノウハウを身につけることはとても大切です。建築や法律の専門家がそれぞれの立場から分かりやすく説明しました。
ご案内
10月25日・11月9日・16日開催「らいふあっぷ基礎講座&相談会」のビデオ視聴をしていただけます。
<場所> 大阪市立住まい情報センター4階 住情報プラザ内
<お問い合わせ>TEL:06-4801-8232
*詳しくはこちらをご覧ください。
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●大規模修繕工事の必要性
すべてのものには耐用年数があります。耐用年数に合わせて適切な時期に適切な手入れをしなければ、耐用年数に至らないうちに使い物にならなくなります。マンションの耐用年数は、部位ごとに異なり、それぞれの修繕周期があります。そして比較的規模の大きな修繕工事や改良工事をまとめて行うのが大規模修繕工事です。
●失敗しないための留意点
業者の選定方法として、特命随意契約、見積もり合わせ、指名競争入札があります。一般的に考えて、いいと思われるのは指名競争入札です。そして最低価格を提示した業者に決めることになりがちです。しかし工事期間中の安全対策費用を見積もりの中に適切に計上しているといった業者の考え方も考慮して選定する必要があります。
業者選定のポイントとしては、会社概要などから情報を得ることのほか、大規模修繕工事の元請としての実績があるかといったことがあげられます。それも自分のマンションの規模と立地条件等がよく似通った実績があれば、現地に足を運んで、その業者の評判を聞くことは非常に参考になると思います。それから事前に、管理組合としての評価基準や評価項目を作成しておき、ポイント制にして公開すれば全体の合意が得やすいと思います。
●大規模修繕工事がマンション管理への関心を高めるチャンス
住みながらの工事を工夫することも大切です。大規模修繕工事をマンション管理への関心を高めるチャンスととらえ、工事の必要性の徹底、情報公開、協力体制づくりなどを通じて、組合員のマンション管理への関心を高めていただきたいと思います。それからマンションの質をあげること、社会のニーズに合った生活様式のレベルアップも必要です。高齢者対策としてのバリアフリーやセキュリティシステムの構築なども必要になってきます。
●長期修繕計画標準様式を利用しよう
平成20年6月に国土交通省から、「長期修繕計画標準様式」と「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」が出ています。背景としては、マンションの快適な居住環境の確保、資産価値の維持・向上が問題となっていること、そしてそれには、建物の経年劣化に対応したタイムリーで適切な修繕工事の実施、適切な長期修繕計画の作成、修繕積立金の額の設定が必要であることなどが挙げられます。
ポイントは次の3つです。1つ目は、管理組合等による長期修繕計画の内容の理解やチェックを容易にするために、作成者ごとに異なっていた様式について「標準的な様式」を策定したこと。2つ目は、長期修繕計画に設定する推定修繕工事項目の漏れによる修繕積立金の不足を防ぐため、標準的な「推定修繕工事項目」を示したこと。3つ目は、将来の長期修繕計画の見直しによる修繕積立金の額の増加が少ない「均等積立方式」により修繕積立金の額を算出するようにしたことです。
管理組合の皆さんは、例えば、長期修繕計画の見直し等に関する業務を専門家に委託する際には、長期修繕計画作成ガイドラインを参考として依頼したり、出てきた長期修繕計画の内容をガイドラインを参考としてチェックすることもできます。ぜひ一度、ご覧いただき、参考にしていただきたいと思います。
●工事の中身を知るのは、契約図書
積算に関して、請負業者の見積額が高いのか安いのかというご質問をよく受けます。しかし一概に安いとか高いという判断はできません。それぞれ内訳書の内容を精査の上、高い、安いの判断ができると思います。通常、品物を購入する場合には、その品物を見ることができます。例えば、時計の場合には、高級ブランド品・国産品・まがい物の時計もあります。それを見て価値を判断されると思いますが、建設工事の場合には、できあがったものは見えません。そこでどういうものができるかというのを示したものが、契約図書になってきます。
●仕様書は仕事のレベルを示すもの
見積書、あるいは工事費内訳書を作成するための根拠は、契約図書のみです。契約図書には、契約書と設計図面があります。契約書には、質疑応答書、現場説明書、契約書があり、設計図面は、図面、特記仕様書、標準仕様書があります。契約書には、請負金額、支払い方法、紛争処理等の方法が書かれています。契約書は、だいたいの場合、請負業者が用意してきますが、自分に都合の悪い項目というのは、削除されている場合が多いので、よく精査してください。仕様書は、図面に記載しきれない工事内容を規定したもので、仕事のレベルが記載されています。その内容によって工事の質が全く異なってくると思ってください。工事費内訳書は数量と単価の積の積上げで作成されますが、数量は数量積算基準により、単価は標準価格として刊行物に掲載・公表されています。
●まとめ
一番問題になるのは、やはり契約図書の確認です。まず契約図書の内容を熟知してください。これは相当に根気がいりますが、よく見ていたただきたい。もしわからなければ、それぞれの担当者から説明を受けて理解してください。発注書の立場で、工事費内訳書の数量・金額、すべて根拠を明示するよう指示してください。それから、メーカーの指定など競争性を阻害する事項が書かれている場合は図面から削除するようにしてください。
●修繕・改修か建替えかの判断
一般的にマンションは、新築時から性能がじわじわと劣化して、大規模修繕を繰り返すことになります。修繕というのは、新築時のレベルに近づけるという程度の改善になります。一方、社会的な居住水準というのは、設備的な性能、耐久性、省エネ性などもろもろの水準が上がっていきます。単に従来の修繕というだけではなくて、改修という概念を入れて大規模に改修をして水準をあげていく、そういういうことが求められています。しかし、やはり最新の水準とはギャップがでてきます。築30年を超えると大規模改修で追いつかない部分がでてきますので、建替えも視野にいれて検討していただく必要性があります。つまり修繕改修か建替えかをどう判断するかですね。
最初に、建築事務所などに建物の診断をきちんとしていただく。一方で、居住者の方々に現状のマンションでどういう不満を感じておられるかをアンケート等で調べていただき、要求改善水準の設定をします。そして修繕改修をすると、どれほどの改善ができ、どれだけのコストがかかるのかを調べます。それに対して建替えは、満足度が高いかわりにコストもかかります。両方を比較してどちらが有利か検討していただき、最終的に判断がつけば、管理組合総会で意思決定をしていただくことになります。修繕改修で形状又は効用の著しい変更を伴わない場合は1/2の普通決議、変更を伴う場合は3/4、建替えということになりますと4/5の総会決議が必要になってきます。
●建替えの方法
建替えを行うには、「建物の区分所有等に関する法律」上の建替え決議を行うかどうか。これが大きな決め手になります。建替え決議を行わない場合はどうするかというとこれは民法の規定で、全員が一致して建て直す意思決定をしていただくことになります。しかし、この方法では非常に時間がかかるということで、建替え決議を行う方法があります。また、建替え決議をした後に、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の規定に基づき、「建替組合」をつくって、権利変換計画により権利の移動をスムーズに行う方法もあります。
●等価交換方式
建替えの方式としては、従来からよくある等価交換方式というものがあります。これはデベロッパーがいったん土地建物を買い取ります。その評価は更地の土地の評価だけになります。買い取り価格はそこから建物の解体費用を控除した価格になります。そこに事業者がマンションを建てて最終的にその区分所有者が売った価格と同額の土地敷地利用権と建物区分所有権を与えるという契約です。この方式は最初にいったん事業者に買い取ってもらうことになり、事業者はこの時点で残っているローン、抵当権を外してくださいということになりますので、区分所有者はいったんローンを返済しなくてはなりません。
●建替組合方式
建替組合方式は、従前の土地建物を評価して権利変換計画という書類で変換してしまうやりかたです。権利変換というのは、従前のマンションの区分所有権と敷地利用権を権利変換計画書と配置設計図という書類上で建替え後のマンションの区分所有権と敷地利用権に移行させる仕組みです。この場合、抵当権もセットでペーパー上のやり取りで処理できるというメリットがあります。等価交換方式より途中の資金的な負担を軽微にすることができます。