Q&A

1. 法律上の問題

問題点1 ―売却する場合

名義人を誰にするかが問題です

 第三者(組合員を含む)に対して共用部分である管理員住宅を売却しようとすると、まずは管理規約のうち共用部分についての記載を変更することが必要になります。
 また、共用部分が変更になると、各区分所有者の敷地権の割合も変わるため、区分所有者全員について登記の変更手続が必要になります。また、実際に第三者に売却するに先立ち、当該売却部分(もと共用部分)について保存登記をすることも必要になってきます。
そして、これらの手続に先だって決めておかなければならないこととして、当該部分の名義人を誰にするか(売却の当事者を誰にするか)という点があります。
 この点、管理組合が管理組合法人になっていれば、同法人が名義人(所有者)として売買の当事者になり、売却代金の受領及び管理を行うことになるでしょうが、管理組合法人ではない場合には、問題はそう単純ではありません。その場合、共用部分は、区分所有法上、区分所有者全員の共有に属するものとされていることから、原則として、当該部分は組合員全員の共有名義にすべきことになると思われます。しかし、区分所有者全員の共有名義とした場合、共有物である以上、現実の売却手続においては、区分所有者全員の実印による押印、全員分の印鑑登録証明書などが必要になり、その手続があまりに煩雑になるという問題があります。他に、区分所有法上のいわゆる管理所有として、共用部分としたまま、当該部分を理事長など特定の者の名義にすることも可能ですが、その場合は、区分所有法上、処分行為にあたる売却をすることはできません。また、そもそも、共用部分のまま第三者に売却することができるのかという問題もあります。

問題点2 ―賃貸する場合

やはり、賃貸人を誰にするかが問題になります

 共用部分を賃貸する場合も、売却の場合について上記したのと同じように、賃貸契約の名義人すなわち賃貸人を誰にするかが問題になります。
 管理組合が管理組合法人になっている場合、同法人が名義人になれば問題ありません。この場合、賃料収入は当然、管理組合法人に帰属することになります。
 一方、管理組合が管理組合法人になっていない場合には、管理組合は法的には権利能力なき社団と扱われますので、賃貸人名義を管理組合としても賃料収入が管理組合に帰属することにはならず、法的には、全区分所有者に総有的に帰属していると考えるか、場合によっては、理事長個人に帰属すると考えられることになります。このような場合でも、管理組合として適切に賃貸収入の管理をしていれば、上記した管理組合法人の場合と特段の違いは生じないとも思われますが、やはり管理組合法人という法人格をもった主体が契約の当事者となる場合に比して、権利関係が不明確である点は否定できません。
 また、区分所有法にいうところの管理者による「管理所有」として、管理者(理事長)などが当該共用部分の「管理」の一環として賃貸することも可能でしょう。この場合、理事長等が「管理所有」することになるとはいえ、当該共用部分の所有権は依然として管理組合に帰属しますので、賃料収入は管理組合に帰属すると考えることになります。
 なお、区分所有建物の賃貸も建物の賃貸借ですから、借地借家法の適用を受けることになりますが、借地借家法は賃借人の保護に手厚い法律であり、定期建物賃貸借契約とするなど特段の定めをしておかなければ、賃貸借契約締結後は、賃借人に債務不履行がある場合など、もはや限定的な場合しか解除できなくなりますので(そのため、なかなか返してもらえない)、その点も十分に留意すべきでしょう。

問題点3 ―共用部分のまま その他の方法で活用する場合

最も簡便な方法ですが、留意点もあります

 以上の売買や賃貸借とは別に、共用部分としたまま、これを有効利用するという方法も考えられます。つまり、それまで管理員の住宅として使用してきた共用部分を別の用途として使用するという方法です。トランクルーム、来客用ゲストルーム、第二集会室などとして区分所有者全員のために使用するのであれば、共用部分であることに変更はありませんから、上記のような登記手続は必要ありませんし、名義人を誰にするかで悩む必要もありません。また、そこから何らかの収入が得られた場合には(売買や賃貸の場合に比して収益の額は小さいでしょうが)、その収入は共用部分からの収入として当然、管理組合に帰属することになります。
 したがって、共用部分としてその他の方法で活用するのが、最も簡便です。もっとも、この場合でも、管理規約で個々の共用部分の用途までが記載されている場合には、管理規約の変更手続が必要になってくることに留意する必要はあります。


弁護士 原 正和