セミナー情報

平成29年度 「マンション管理の基礎知識」基礎講座報告  11/12, 11/25

開催日時:平成29年11月12日(日)、11月25日(土)

11月12日(日)第1日目−1

講座1 マンションの管理と不動産価値について
マンションの管理と不動産価値について 講師

見た目《美観》が価値に 直結するマンションだからこそ、管理組合の努力と意識が大切です。〈講師〉 (公社)大阪府不動産鑑定士協会 飛鳥 由美子 (あすか ゆみこ)


今や日本人の10人に1人がマンションに住んでいる時代です。私自身もマンションに住まい、管理組合の理事長を10年間務めています。今日は、私自身の経験談も交えながらお話しさせて頂きます。

1 マンションの価値
マンションは居住者の共同財産ですから、自分たちで守る必要があります。建築年数が同じ物件であっても、その資産価値は「管理」によって変わります。管理会社任せにするのではなく、管理組合や区分所有者の意識が高いかどうか、私たちの努力が必要になってきます。

2 マンション管理と不動産価値
マンションは見た目《美観》が、価値に直結します。共用部分の清掃の状態や、駐輪場が整頓されているか、集合郵便受けの状態はどうか、ごみ置き場の整理整頓や清掃がしっかりと行なわれているかです。エントランス周りの植栽管理などの手入れも最初に目につくところです。
私のマンションでは場所柄、近隣の方々の違法駐輪に大変困っていました。美観も損なわれますし、居住者の出入りに支障を来します。そこで、違法駐輪自転車に貼紙をしたり、チェ-ンロックをかけて、管理員が対応しています。居住者も違法駐輪をする人を見かければ「駄目ですよ」と声掛けし、居住者・管理会社が一丸となって、5年でほぼ解消しました。植栽管理でも枯れた状態を放置せず、良心的な植木屋さんを探し、常緑樹に植え替えると、清掃の手間も省けますしマンションの見た目《美観》は格段に上がります。

3 日常管理の良し悪しと不動産価値
分譲マンションの価値を維持するのに、以下のような具体的な問題が挙げられます。
管理費・修繕積立金の滞納や不足問題・居住者の高齢化問題・理事や役員のなり手不足の問題・賃貸化や空き家の増加問題・違法民泊の問題・ルール違反居住者の問題(違法駐輪/ペット/騒音/ベランダ喫煙など)
例えばペット禁止でも、へびや魚等の鳴かないペットの対処には、管理会社との連絡を密にすることが有効です。亡くなった親が飼っていた犬を飼わせて欲しいと言われ、「一代限りの特例」で許可したため、ペット禁止のル-ルがなしくずしになった事例もあります。騒音も、必ずしも上下とは限らず、斜め上下や水道管のウォ-タ-ハンマ-現象の場合もあります。またベランダ喫煙では、実際に裁判で訴えられた喫煙者が敗訴しています。(平成24年名古屋地裁)。役員のなり手不足の解決のため、若い人に役員になってもらうように個別折衝する、輪番制を採用している場合で役員就任を拒否する人には、共益費を多めに支払ってもらうという方法もあります。
これらを解決することは各所有者の責任と考え、マンションの管理・運営に積極的に参加して、マンションの価値を高めて頂きたいと思います。

4 違法民泊問題
民泊事業者が多くなりましたが、私は反対を唱えています。夜遅くにエントランスで騒いだり、とにかくうるさい。共有廊下に放置されたごみの撤去など、管理員の作業が増え、管理費が増えることにもなりかねません。私の住むマンションの事務所フロアでも、怪しいと思われるリフォ-ムの申請がありました。管理規約には、民泊は禁止すると書いていなかったため、それをきっかけに、規約条文に漏れのないよう弁護士の先生に監修いただき、変更しました。
居住用のマンションに民泊が混在すると、資産価値の低下に直結します。裁判になっているケ-スもあり、こうなると解決までに長期化し、資金も気力も消耗しますので、その前に芽を摘んでおくことの方が大事です。国土交通省も標準管理規約の改正をしました。もう喫緊の問題です。

《参考までに》私の住むマンションでは、管理規約第12条に2項を下記のように付け加え、売却時には、重要事項説明にも必ず入れるよう不動産業者にお願いしています。
「営利・非営利を問わず、外国人旅行者ならびに不特定、または多数の区分所有者以外の者を専有部分に宿泊させ、またはこれらの者に貸し出してはならない。事務所等については、理由のいかんを問わず、専有部分に浴室・シャワ-ル-ムなどの設備を設置してはならない。」


5 大規模修繕工事が不動産価値に及ぼす影響
12~20年に1度必要なのが大規模修繕工事で、皆さんがコツコツ貯めた修繕積立金を一度に使う大変重要な大工事です。具体的には、防水工事、外観の変更、ドアの取替え、オートロックなどの防犯対策などですが、これを成功させると、マンションの価値が上がります。
そのための修繕積立金は、新築分譲時に安く設定されている場合も多いと聞きます。入居してから何度か大規模修繕工事を繰り返すと、将来全然足りなくなるのがわかってきます。国土交通省が管理費・修繕積立金の目安を公表しています(平成25年調査-マンション修繕積立金ガイドライン)。例えば51戸~75戸で、管理費は1戸当たり1万727円。修繕積立金は、建築延床面積5000㎡以上~10000㎡未満で、平均202円/㎡。これが低く抑えられていて、いざ大規模修繕工事をしようとしても、9割のマンションで積立金が足らなくなっていると聞きます。修繕積立金が確保されていないと、必要な時期に必要な工事ができない事態になり、専有部分の資産価値の目減りにつながります。
実は、私の住むマンションでは大規模修繕工事の途中で理事長が物件を売却し、突然不在になりました。そんな中、管理組合が悪質な工事を行なった施工会社と裁判で争う事態になってしまいました。建築の専門家だから大丈夫、大手の工事会社だから大丈夫と信じすぎて、管理組合は任せっきりにしていました。もし、理事だけでなく区分所有者がみんなでもっと積極的に工事に関心を持っていれば、こんなことにはならなかったかもしれません。
計画的な修繕工事を実現するために、必要な金額を一時徴収することなく、適正に積み上げられるよう修繕積立金の金額を見直すことは、コンサルタント会社や施工会社の選び方と同様に重要なことです。

6 マンションは管理を買え
いい管理会社を選ぶのは非常に大事です。しかし、手抜き管理をされないように、管理組合が高い意識を持つことも必要です。管理会社は管理組合のいいパ-トナ-ですが、報酬が介在する契約関係なのですから、そこは割り切って考えなければいけません。マンションの資産価値は、ひとえに私たち管理組合員の努力、意識にかかっています。それを肝に銘じて欲しいと思います。

11月12日(日)第1日目−2

講座2 民泊やシェアハウス等について(標準管理規約の改正を受けて)
民泊やシェアハウス等について(標準管理規約の改正を受けて) 講師

民泊新法の施行に備えて民泊を禁止するか認めるかを管理規約に明記しておきましょう。〈講師〉 大阪弁護士会 山本 浩貴 (やまもと ひろき)


1 民泊・シェアハウスとは
民泊もシェアハウスも法令上の定義はありません。民泊とほぼ同義の言葉として、住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」。平成30年6月施行)上、「住宅宿泊事業」とは「宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業」と定義されています。本講座では主に民泊についてお話しします。
■民泊のプラス面とマイナス面
《プラス面》

空き家の所有者からすれば、民泊を経営することで空き家を有効活用できる可能性があります。また、国・地方自治体では、外国人観光客の宿泊施設不足の対策になります。
《マイナス面》

近隣とのトラブルが起きやすいという点が最も強く指摘されています。外国人観光客との生活習慣の違いによるものや、騒音、ごみのポイ捨て問題のほか、オートロックが無意味になってしまっているマンションもあります。
■民泊の現状
国内民泊サイト最大手の「Airbnb」では、平成29年11月現在の国内登録数は約56000件とのことです。大阪市内では、中央区と浪速区の割合が大半で、民泊を行っている区分所有者のうち相当数は外国人です。
民泊関連のトラブルは各地で起き、大阪市違法民泊通報窓口によれば、通報件数は急激に増加しており、ごみ、騒音の問題、火災を心配している近隣住民が多いようです。また、民泊と関連する犯罪のニュース報道や、違法民泊で逮捕されるケースも増えました。
現状では、ほとんどの民泊施設が違法ですが、平成30年6月15日から施行される住宅宿泊事業法上の届出を行なえば、法令上は適法な民泊が増加することになります。法令上適法な民泊をマンション内で禁止したい場合は、管理規約で定めておく必要があります。住宅宿泊事業法の施行よりも前に、民泊を禁止するか認めるかをマンション内できちんと議論し、規約で明示しておくべきでしょう。
 
2 民泊に関する法令
■旅館業法
「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」は、旅館業法上の許可が必要です。違反した場合には刑事罰もあります。
民泊は、旅館業法上の「簡易宿所」に該当します。
■国家戦略特別区域法
国家戦略特別区域法13条1項で、旅館業法の特例が定められています。特区内で条例(いわゆる「民泊条例」)を定め,自治体が認定した事業者は、所定の条件内で旅館業法の許可なく民泊営業を行うことができるとされており、大阪市でも平成28年10月に民泊条例が施行されています。
■住宅宿泊事業法
平成30年6月15日から施行されます。民泊(正確には「住宅宿泊事業」)を「住宅」のままで営める宿泊事業と位置付け、住宅地でも民泊ができる制度と考えられているようです。住宅宿泊事業法上の届出を行なうことで、所定の条件内で旅館業法の許可なく民泊を行うことができるようになります。
民泊ホスト(家主)に対しては、宿泊者名簿の作成や、配慮すべき事項の宿泊者への説明、標識を掲げること等を義務付けています。
また、民泊プラットフォーム運営事業者(民泊サイト)に対しては、観光庁長官への登録を義務付けました。
 
3 標準管理規約の改正
住宅宿泊事業法の成立に伴い、平成29年8月29日に標準管理規約が改正されました。改正標準管理規約についての国土交通省のコメントに「住宅宿泊事業を許容するか否かを管理規約上明確化しておくことが望ましい」と書かれています。
改正標準管理規約12条では、1項を従前のままとし、新たに2項が記載されました。
標準管理規約は、国土交通省のホームページ等で入手できます。
 
4 管理規約の定め方
■民泊を禁止する場合
管理規約に明示する必要があります。私見ですが、改正標準管理規約のままでは、実効性の点で不十分と考えます。
禁止したい民泊行為の態様の明示や、民泊の対処や調査のための権限を付与するような条項を入れると民泊禁止の実効性を上げることができるでしょう。
■民泊を認める場合
違法民泊や近隣とのトラブルを防止するために、民泊開始の届出・苦情窓口連絡先の提出・管理業者の届出等を民泊事業者に義務付けておくとよいでしょう。
ごみの廃棄方法・標識の取扱い・エントランス鍵の管理方法等も定めておけば、トラブルの予防に繋がります。
 
5 民泊への対策
■大阪市違法民泊通報窓口への相談・通報
■証拠の収集
宿泊者の証言、映像、写真、入館者記録など証拠を集める必要がありますが、プライバシーや肖像権については注意してください。
また、近隣の方から管理組合宛に苦情があった場合は、いつどのような苦情があったか等を管理組合で記録しておいてください。
■訴訟手続きによる差止め
民泊の差止めを求める訴訟が必要となるケースもあります。ただし、海外在住の区分所有者が相手の場合には、訴状送達するだけで時間も費用も相当かかってしまいます。
訴訟手続を用いるといった事後の対応より、規約で明示的に民泊を禁止し、未然にその実効性を確保することが重要です。

11月25日(土)第2日目−1

講座1 大阪市におけるマンション支援の取組みについて
大阪市におけるマンション支援の取組みについて 講師

管理組合の皆さんを専門家と 連携しながら、支援します。〈講師〉 大阪市都市整備局 下中 裕史 (したなか ひろふみ)


1 大阪市の分譲マンションの状況
大阪市の分譲マンション戸数は平成29年1月末約32万戸で、市民の5人に1人がお住まいの主要な居住形態の一つです。
・高経年マンションの推移
 築30年以上のマンションは、15年後には20万戸を超えると推定されており、改修や建替えが必要と見込まれるマンションの増加が大きな課題の1つです。
・マンション管理支援の基本的な考え方
 マンションは区分所有のため、権利関係が複雑で、合意形成では戸建て住宅にない難しさがあります。また、建築・法律・税金や資金計画・コミュニティ関連等の知識が必要となります。こうしたマンション管理の主体は管理組合であり、行政や専門家は管理組合を支援するという関係にあります。

2 大阪市の分譲マンション施策
(1)大阪市マンション管理支援機構
公共団体、専門家団体、民間事業者団体が連携して平成12年に設立し、管理組合への情報提供、普及啓発や相談支援をしており、現在の登録管理組合数は約1300です。
マンション管理関連セミナーやマンション管理フェスタ(2年に1度)の開催・
情報誌「らいふあっぷ」(年3回)や「マンション管理サポートブック」の発行・
大規模修繕工事見学会の開催などをしています。
(2)大阪市立住まい情報センターでの相談事業
 

住まいの一般相談や、住まいの専門家相談を実施しています。
(3)分譲マンションアドバイザー派遣制度
 

無料で一級建築士等を管理組合の勉強会に講師役として派遣します。
 (4)分譲マンション長期修繕計画作成費助成制度
  

長期修繕計画の作成や見直しにかかる費用の一部を補助します。
  

国では5年ごとの見直しを勧めています。
 (5)分譲マンション再生(耐震・建替えなど)に関する支援制度
  

・分譲マンション再生検討費助成制度
   
建替えに必要な合意形成のための、初期段階の経費支援制度です。
   ・マンション耐震化緊急支援事業
一定の要件を満たす民間マンション(分譲・賃貸)の耐震診断・耐震改修設計及び耐震改修工事に要する費用の一部を補助する支援事業です。
   ・マンション建替型総合設計制度
一般よりも少ない公開空地で割り増し容積率がもらえる制度です。

大阪市では、いろいろなメニューを用意していますのでご活用ください。

3 最近の話題
(民泊について)
○適法な民泊は下記のいずれかに該当するものだけです。
 ・旅館業法に基づく許可
 ・国家戦略特別区域法に基づく認定(いわゆる特区民泊)
 ・住宅宿泊事業法に基づく届け出(いわゆる民泊新法)【平成30年6月施行予定】
○大阪市では違法民泊通報窓口を設けており、受付先は保健所です。
 (電話06-6647-0835/平日9:00~17:30)
○管理規約の改正……民泊に対するメリット・デメリットを十分に論議した上で、民泊の可否を管理規約に明記することが非常に重要です。

11月25日(土)第2日目−2

講座2 マンションの建替え・改修等に関する公的融資制度の活用について
マンションの建替え・改修等に関する公的融資制度の活用について 講師

民間とは違う公的金融機関として、 3つの制度でマンションを支援します。〈講師〉 独立行政法人 住宅金融支援機構近畿支店 野上 雅浩 (のがみ もとひろ)


住宅金融支援機構とは
昭和25年に設立された住宅金融公庫が、独立行政法人として平成19年に組織変更され設立されました。民間金融機関による融資を補完する業務を行ない「住宅の建設等に必要な資金の円滑かつ効率的な融通を図る」こと等が目的です。具体的には証券化支援業務(フラット35)、融資業務(災害融資等)、銀行融資の保険業務です。
機構が行っているマンションの支援策3つをご説明します。

1 マンションすまい・る債
修繕積立金の運用商品で、機構が国の認可を受けて発行する債権です。購入すると10年間積立が可能で、毎年定期的に利息を支払い、満期の10年目に元金をお返しします。初回積立から1年以上経過していれば、中途換金も可能です。平成25年度国土交通省の調査では、修繕積立金の運用先として銀行の普通預金、定期預金、決済性預金に次ぐ4番目で、約2割の管理組合が利用されています。

2 マンション共用部分リフォーム融資
平成25年度国土交通省の調査では、マンションの大規模修繕工事を修繕積立金のみで行った組合は66.9%。残りは一時金の徴収、もしくは借入等を行っています。マンション共用部分リフォーム融資は、共用部分の工事で管理組合としてお金を借り入れする制度です。
スケジュールは事前相談→総会の決議→融資申込み→資金受け取り
となります。工事途中で予算以上の工事が必要となった場合でも、工事完了までに総会・申込めば融資は可能です。

3 まちづくり融資
住宅金融支援機構は、マンション建替え組合等に対する事業資金の融資の他、戻り入居される区分所有者が床を購入する資金等の融資でマンション建替え事業を支援しています。マンション建替えの合意形成に必要な資金計画でお手伝いさせていただいております。
《マンション建替え/機構融資のポイント》
 (1)高齢者の資金計画支援
 (2)景気変動があっても、安定的に融資
 (3)初動期融資
 (4)制度を公開して、検討材料を提供
 (5)専門スタッフが対応
このうち、(1)高齢者向け返済特例制度は、満60歳以上の方が建替え後のマンションを購入する際にご利用いただける融資です。毎月の返済は利息のみ行い、亡くなられたときにマンションを処分するか預貯金で一括返済いただく、住宅購入資金に限定したリバ−スモ−ゲ−ジのような融資です。
もし建替え等される場合は、ご相談ください。

11月25日(土)第2日目−3

講座3 パネルディスカッション マンションでのよりよい暮らしのために
パネルディスカッション マンションでのよりよい暮らしのために 講師

常に話し合い、専門家に問いかける、 区分所有者に理解を求める努力をすることが、 良好な管理組合の運営につながります。

〈司  会〉 大阪司法書士会 沖 健補 (おき けんすけ)

〈パネラー〉 大阪弁護士会 辻岡 信也 (つじおか しんや)

〈パネラー〉 (公社)大阪府建築士会 桑原 宏明 (くわはら ひろあき)


マンション暮らしに関わる管理組合や管理会社の悩みについて、11月12日にいただいたアンケートから紹介。それぞれの立場から専門家に答えていただきました。
※文中ではそれぞれ各氏の姓の頭1文字に省略しています。

1 大規模修繕工事について
Q 施工会社と設計監理会社間の高額な金銭のやりとりが、工事代金を引上げている問題について、管理組合はどう対応したら良いか。
沖 国から設計コンサルタントを活用した大規模修繕工事の発注等の相談窓口についての通知が出されましたね。
桑 「私たちは素人だから、専門家の言うことは聞くしかない」と組合が受け身になると、悪意のある人にはチャンスになります。管理組合がちゃんと考え、いろいろと質問することは、入口での防止効果を発揮します。理事長1人で考えず、可能な限り多くの区分所有者に知恵を貸してもらうことが大事です。
辻 最近、理事長が業者からキックバックを受け、不急の工事を発注しているとの相談も増えています。理事長は疑いを掛けられないように、3社くらいの工事業者から見積もりをとり、一番合理的な値段の業者に依頼することを理事会で決議し、議事録に記すことが自己防衛になります。理事長は決して1人で判断せず、決議は文章に残してください。
沖 大阪市マンション管理支援機構が行なう「大規模修繕工事見学会」では、工事の計画段階からの苦労話しを管理組合の方々から直接お聞きすることが出来ます。参考にしてみてください。

2 民泊問題と管理規約改正
沖 らいふあっぷ50号に規約改正の参考例を載せています。参考にしてください。最近は、様々な共用施設を備えたマンションが増えてきました。専有部分と共有部分で使途を変更したいという質問です。
Q タワーマンションの各居室の民泊は禁止しているが、使用頻度の少ないゲストルームは民泊活用できないか?
辻 マンション内の環境を悪化させず、有効活用の方法を考えるとすれば、ゲストルームが一般の居住者と違うフロアにあるなら、そのフロアのみ民泊可能とする考え方はあるかもしれません。その場合、メリット・デメリットを総会で十分説明し、管理規約を改正する必要があります。規約変更が面倒なので、細則で対応できないかという相談もありますが、管理規約の変更は必要です。細則で、住宅には住宅宿泊事業法による住宅を含まないと規定して、民泊を間接的に禁止するなど、規約で定まっている文言を明確にするくらいは可能だと思います。

3 管理組合の問題と役員以外の無関心
Q 総会への出席者が少なく、白紙委任状が多い。出席者を多くするには?
沖 そもそも、総会出席者が少ないと良く聞きますが、出席者を増やす努力も必要ではないかと思います。参考になる話をご披露ください。
桑 世代や住み方に差異があります。大規模修繕では、最初は総会や、理事会で理事長に一任しますが、いよいよ自分自身に関わる工事説明会や工事が始まる段になって初めて、異義を唱える人が多いです。面白いチラシを作るなどして、最初からみんなの気持ちを向けてもらうよう努力することで、円滑に工事も進みます。同じ区分所有者である組合役員が、工事見学会や探険の企画などして、良い工事の完了を迎える仕組みを作ることが必要です。それも、1人だけで頑張らず、関わる人は多い方がいいです。いろんな人に話が通じるようにすると、通常総会でも関心を持ってもらえるきっかけになると思います。委任状を集める方法としては、自治会・子ども会の協力をもらったり、回覧板を利用した経験があります。ただ、管理組合は区分所有者の集まり、自治会・子ども会は住んでいる人の集まりと特性が違いますので注意は必要ですが、良好な近隣関係を作る意味では、一手法だと思います。

4 今後の課題について
沖 セミナ-のテーマとして希望が多い、高齢化に関する提言をお願いします。
辻 マンションの管理不全は、必ずしも高齢化だけの問題ではありませんが、管理費・修繕積立金の滞納や、亡くなられた後に相続人が現れないとか、孤独死されて部屋をどう処置するかという問題があります。駅から離れているマンションで、管理組合でコミュニティバスを運営しようかと検討するものの、バスを使わない人からは、管理組合での費用負担に反対の人も出てきます。別会計を組んだり、自治会で運営するなど、マンションの中での高齢者がより過ごしやすい環境を作るための費用負担をどうするかなどは、増えてくると思います。
沖 あるマンションで、孤独死が2ヶ月くらい発見されなかった。その方には、相続人がおらず、クロス替えや消毒費用を管理組合が理事会決議して仮負担しました。物件を処分して、理事会が立て替えたお金は優先的に弁済を受けることになりますが、様々なことを想定して、管理規約や細則を整備しておく必要があると考えます。
桑 高齢化というより多様化の問題でもあると思います。マンションの大規模修繕工事では、改良工事のメニューを選ぶのに、おかれている立場で選びたいものが異なります。本当の意味で付加価値を高めるには、自分の思いを主張することも大事ですが、違う意見を持った方がなぜそう思うのかを理解しながら選ぶことで、より良いマンションになると考えます。

5 最後に
沖 マンション管理について、一人でも多くの方に関心を持ってもらうには、努力しかありません。皆さん方で一人でも多く、区分所有者の方に声かけしていただいてはと思います。

 他にも、大規模修繕工事で欠陥があった場合や工事会社の選び方、長期修繕計画の見直し方法や総会での白紙委任状の取扱い、管理会社を変更したい相談に対して討論頂きました。