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建替え決議成立後に不参加者から無効の表明があった場合は?/A事件:大阪高等裁判所 平成12年9月28日判決、B事件:神戸地方裁判所 平成11年6月21日判決

A事件:大阪地方裁判所 平成11年3月23日判決 大阪高等裁判所 平成12年9月28日判決
B事件:神戸地方裁判所 平成11年6月21日判決

事案

 A判決の事件では、建築後29年を経過した団地のマンションにおいて、区分所有者の集会で建替え決議が成立しました。
 また、B判決の事件では、阪神・淡路大震災により損傷を受けたマンションにおいて、臨時総会で建替え決議が成立しました。
 そこで、A判決の事件、B判決の事件共に、建替えに参加しない区分所有者ら(以下「Xら」という)が建替え決議に賛成した区分所有者らに対して、本件建替え決議は区分所有法62条所定の建替え決議の要件を欠き無効であるとして、本件建替え決議の無効確認を求めて提訴したのです。
【問題点】
 A判決、B判決共に問題点は多岐に渡りましたが、ここでは、区分所有法62条所定の建替え決議の要件についての問題点、その中でも、訴訟において主に問題とされ裁判所も積極的に判断を下した問題点を取り上げます。
 A判決の事件では、区分所有法62条の実質的要件である「老朽・・その他の事由」が本件において認められるか。「老朽」には、物理的な効用の減退のみならず、敷地の効率的利用、建物の効用増加、社会的・経済的効用の減退が含まれるのか。
 B判決の事件では、区分所有法62条の実質的要件である「過分の費用」が本件において認められるか。「過分の費用」の判断方法の当否という点が主たる争点となりました。

判決の要旨

 まず、A事件の高等裁判所の内容は次のとおりです。
「老朽」の意義については、『「老朽」とは、建築後の年月の経過による建物としての物理的効用の減退を指すと解する。外壁や内壁のクラック、ベランダの塗装剥離、鉄筋の露出、給配水管の腐食の進行等からすれば、築後約30年という年月の経過により、建物として社会通念上要求される一定の性能が損なわれていることは明らかである。老朽により建物としての効用が損なわれることを判断するにあたって、必ずしも(税法上の)物理的耐用年数を基準としなければならない理由はなく、建物の躯体部分だけでなく設備等を含めた全体としてみるべきである』と判示しています。また、「過分の費用」を要するか否かは『建物全体について判断すべきであり、専有部分の維持回復費用を考慮しないとするのは、制度の趣旨に照らして合理的な理由はない』と判示し、さらに、建替え反対者側の「賛成者側の提出した見積書の工事内容、工事単価は、経年マンションの保全工事の実態からはるかに遊離している」との主張に対して、『建物にどの程度の効用を期待するかは、相対的な価値判断の問題であるから、建物の効用の維持、回復にどの程度の補修工事をするか、どの程度の費用を投じるかは物理的な建物の老朽化の程度その他の様々な要素を勘案して判断することになり、この点はまずもって区分所有者が判断すべきことであると解されるから、大多数の区分所有者の判断は、それが不合理といえない限りは、これを尊重せざるを得ない』と判示しています。
 次に、B判決の問題点の判断内容は次のとおりです。
「過分の費用」とは、区分所有建物が物理的な効用の減退により建物の使用目的に応じた社会的経済的効用を果たすために社会通念上必要とされる性能を損ない、その効用を維持、回復するために必要な費用が相当な範囲を超えるに至ったことをいう。単に建物の時価と建物の維持、回復費用の比較によるのではなく、諸般の事情を総合考慮し、区分所有者が建物を維持することが合理的といえるかにつき、多数の区分所有者の主観的な価値判断を尊重して、判断すべきであるとしています。
【判決の意味】
 A判決は、「老朽」の意義を明らかにし、税法上の耐用年数の約半分である30年の経過時点でも「老朽」を認めた点で、今後の同種経年マンションの建替えに大きな影響を及ぼすものと思われます。
 B判決は、被災という緊急事態に際し、建替えと復旧のどちらを選択するのかを考える場合に参考となる判例であり、「過分の費用」の要件の存否につき、多数の区分所有者の意思を尊重した点が注目すべきところといえます。

ひとことコメント
◆ 管理組合の今後の対応 ◆

 これらの判決は、多数のマンションが老朽化し建替え問題に直面すると予想される中、管理組合の皆さんが建替えを検討し、実施するにあたり、円滑に行うための一つの指針を与えてくれるものといえます。マンションの建替え紛争は、訴訟となると準備期間から通算するとかなり長い年月を経ることは否定できません。また、マンションの内部の紛争ということで、近隣関係もからむため、紛争中の当事者の精神的労力はかなりのものとなることが予想されます。従って、管理組合としては、上記のような諸判例を検討して、その実質的要件を十分に検討すると共に、少数反対者にも十分説明・説得を行い、手続面を充実させることが重要でしょう。なお、近年、区分所有法の改正事項として建替えの要件の緩和化が検討されておりますので、この改正の動きにも注目されることをお勧めします。