最高裁判所第3小法廷
平成22年1月26日判決
平成20年(受)第666号
平成20年(受)第54号、第55号
平成19年(受)第1717号
平成22年1月26日判決
平成20年(受)第666号
平成20年(受)第54号、第55号
平成19年(受)第1717号
- ●事件の概要
- 本件は、マンションの管理組合Xが、マンションの区分所有者であるが部屋を賃貸するなどして居住していないYらに対し、月額2500円の「住民活動協力金」の支払いを求めた事案です。
Xは、管理組合運営の負担が居住組合員に集中していることが不公平であるとして、総会で不在組合員に対して協力金を支払わせる規約改正を決議しました。しかし、不在組合員のうちYら5人が規約は不公正であるとして支払いを拒んだため訴訟になりました。
計3件の訴訟が提起されましたが、第1,2審判決では判断が分かれ、第2審大阪高等裁判所では、1件について「月1000円の限度で有効」、2件について「協力金を求める規約改正は無効」と判断しました。 - ●問題点
- 区分所有法は、規約変更の際には、一部の所有者に特別の影響を及ぼす場合にはその所有者の承諾が必要であるとしていますが(区分所有法31条1項後段)、今回の金銭負担が「特別の影響」に当たるかどうかが争点でした。
- ●判決内容
- 判決は、まず、「不在組合員は、Xの選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、Xの活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、Xの役員に就任し、各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる。」として不公平状態にあったことを認定し、不在組合員に対して「規約変更により一定の金銭的負担を求め(て)」「不公平を是正しようとした」ことに必要性と合理性があることを認めました。
そして、上記必要性と合理性と比較されるべき不在組合員の不利益については、支払いを求められる月額2500円という金額は管理費と修繕積立金の合計額である月額1万7500円の約15%に過ぎないとし、また、180戸の不在組合員のうち反対して支払いを拒んでいるのは12戸を所有する5名の組合員に過ぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、「不在組合員において受任すべき限度を超えるとまではいうことができ(ない)」との利益考量を示し、結論として、区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないと判示しました。 - 【判決の意味】
- 本判決は、上記のとおり、不在組合員に対して一定の金銭的負担を求めることを是認しましたが、どこまで一般的に敷衍できるかは慎重に検討する必要があります。
すなわち、本事案では、本件マンションの規模が大きいこと、総戸数868戸のうち180戸が組合員不在状態となっていたこと、不在組合員に課した負担額が比較的少額であったこと、不在組合員のほとんどが争わなかったことなどの事情があり、判決はそれらを総合的に判断して結論を出したものであって、今後、不在組合員に対して金銭的負担を求める規約変更がすべて有効と判断されるとは限らないことに注意が必要です。
◆ 管理組合の今後の対応 ◆
築年数の古いマンションでは、所有者の高齢化と不在組合員の比率の上昇が進み、役員のなり手不足が深刻な問題となっています。
本判決は、役員のなり手不足に困っている管理組合にとっては朗報と言えるかも知れません。今後、同様の課金制度を実施する管理組合が増えてくることも予想されます。
ただし、「判決の意味」の欄で述べたように、本判決は不在組合員に対して金銭的負担を求める規約変更を一般的に有効だと判断したものではありませんので、規約変更を行うに際しては、管理組合で十分に話し合って、できるだけ多くの組合員(不在組合員も含めて)の理解が得られるような制度とするべきでしょう。