(原審:東京地方裁判所 平成6年11月24日判決)
マンションの管理組合法人であるY氏が、平成元年2月19日開催の定期総会(以下「本件総会」)で「管理組合・規則」の改正に関する決議(以下「本件決議」)をし、「所有戸数及び専有面積に拘わらず、組合員は一票の議決権を有する」旨の改正(以下「本件改正」)をしました。しかし本件総会の招集通知には、「規約・改正の件(保険事項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されているに過ぎませんでした。
そこで当該マンションの区分所有者であるXが、本件総会の招集通知書には、規約の改正等一定の重要事項を決議するサイに必要とされる「議案の要領」(区分所有法35条5項)が記載されているとは認められず、招集手続きに欠陥があるから本件決議は無効であるとして、本件決議の無効確認を求めて提訴したのです。
【問題点】
本件総会の招集通知書は、区分所有法35条5項に規定する「議案の要領」が記載されているものといえるか。また記載されているといえないとして、本件決議の効力は有効か、無効かが争点になります。
裁判所は、本件総会の招集通知は「議案の要領」を欠くと認定し、本件決議は重大な手続違反があり無効であるとして、Xの請求を認める判決を言い渡しました。その内容は次のとおりです。
議事の充実を図るという区分所有法35条5項の主旨に照らせば、議案の要領は、事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかにしたものでなければならないが本件総会の招集通知は上記内容の記載があるとはいえない。議案の要領の通知を欠くという招集手続きの瑕疵がある場合の決議の効力について検討するに、議案の要領の不備は、組合員の適切な議決権行使を困難ならしめるものといえ、軽微な瑕疵ということはできない。とりわけ、本件改正は組合員の議決権の内容を大幅に変更し、一部の組合員に大きな不利益を課すので、改正案の具体的内容を周知徹底させる配慮が必要だがこれがなされず、また、事前通知があれば本件決議は可決されなかったことが明らかである。したがって、本件決議には重大な手続違反があり、これを無効とするのが相当である。
【判決の意味】
一般に、招集手続の規定に反する集会の決議は原則として効力を生じないが、その違反の程度が軽微で集会の決議に影響を与えることがない場合は、招集手続の規定に反しているとの理由で無効を主張し得ないと解されています。この判決は、このような見解をとる事を示すとともに、招集手続の違反内容が重大な場合の具体的な判断、及びその判断方法として組合員の適切な議決権行使の確保を中心に検討することを示した点で意味深いものといえます。
「管理組合の今後の対応」
●この判決は、管理組合の皆さんの日常業務である招集通知において、その通知の記載内容次第で集会の決議の効力が無効になるという恐ろしいことが起こり得るということを示しています。確かに、招集通知に具体的改正内容を全く記載していなくても、改正内容につきそれまで説明、討議が繰り返されてきた経緯や決議の効力に影響を与えないことなどを理由に、決議を有効とする判例もあります。(平成9年5月27日 神戸地裁姫路支部)
●しかし管理組合としては、法的安定性の確保、およびリスク回避は重要なことですから、今一度招集通知の内容の見直しを提案いたします。具体的には、この判決が示したように「議案の要領」は「事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかに」することが必要ですから、例えば規約の改正ならば、その改正内容、主旨を記載しておけばよいでしょう。