本件マンションは昭和57年1月に建設された鉄筋コンクリート造3階建て(25室)であったところ、区分所有者の1人である被告は、昭和63年6月、費用62,000円を支出して自室の南側に付属するバルコニー(規約上、共用部分とされ各区分所有者に専用使用が許されている)の壁に直径約47センチの衛星放送受信用のパラボラアンテナ1基を取り付けた。その方法は、アンテナの支持部をバルコニーのコンクリート壁にその両面から挟み付けるようにして取り付け、これをボルトで締め付けて固定させるというものであり、壁に穴を開けるようなことはしていない。本件管理組合は、平成元年2月の総会で、管理組合が衛星放送受信用の共同パラボラアンテナの設置をした場合には、既に個人でアンテナを設置している者は自己の費用でこれを撤去する旨の決議を行い、続いて同年11月の総会で、1 共同アンテナ工事に平成2年2月に着工すること、 2工事費用については全25戸が均等に負担することを決議した。そして、平成2年2月25日、本件マンション屋上に共同アンテナが完成し、これ以降、各居住者は共同アンテナで衛星放送を受信することができるようになった。しかしながら、被告は共同アンテナよりも個別アンテナの方が画質が鮮明であるなどとして、個別アンテナの撤去、共同アンテナ設置費用分担金の支払のいずれも拒否したため、管理者がこれを求めて提訴した。
【問題点】
(1)個別アンテナの設置は規約上の専用使用の方法(バルコニーとしての通常の用法)の範囲内か
(2)既に個別アンテナが設置された後に撤去を求める総会決議の効力
判決は問題点(1)について、被告が個別アンテナを設置した昭和63年6月時点においては、1.本件マンションには共同アンテナが設置されておらず、2.被告の取り付けたアンテナは特にマンションの美観を害するものとも思われず、取付方法も壁に穴を開けるものではないこと、3.本件マンションではエアコン室外機はバルコニーに設置してよいとされていることなどから、「バルコニーの通常の用法」の範囲内であると判断したが、「バルコニーとしての通常の用法」であるか否かの判断は固定的なものではなく、その後の本件マンションのもつ条件の変化等によっても変わり得るものであるところ、1.平成2年2月25日以降は共同アンテナで衛星放送の受信可能となったこと、2.そもそも本件マンションのバルコニーは共用部分であって、被告はただ専用使用を許されているに過ぎないことなどから、同日以降は「バルコニーとしての通常の用法」とは言えなくなったと判断し、被告に個別アンテナの撤去と共同アンテナ分担金の支払を命じた。また、判決は問題点(2)について、仮に被告の主張するとおり個別アンテナ設置が「バルコニーの通常の用法」に含まれると仮定したとしても、総会における個別アンテナ撤去決議は、1.バルコニーが共用部分であること、2.共同アンテナで既に受信可能となっていること、3 .被告が個別アンテナ設置に要した費用も62,000円と多額でないこと、4.共同アンテナ設置から既に2年近くが経過していることなどの事情を考慮すれば、個別アンテナ撤去を求める総会決議は不当・不合理なものとは言えない、と判断した。
【判決の意味】
近時、区分所有者がバルコニーなどに物置等を設置し、管理組合の撤去要求に従わないといったトラブルが多く見られます。これは、各区分所有者からすれば、「各室に隣接するバルコニーをどのように使おうと自由だ」という感覚をどうしても持ってしまいがちであることから来るトラブルと思われます。この点、マンションのバルコニーは果たして専有部分であるのか、共用部分であるのか学説上対立がありますが、バルコニーの多くは取り外し可能な仕切り板で遮断されているに過ぎず、火災などの緊急の際の避難通路とされ、通常は共用部分と考えられます。そうすると、各区分所有者は、共用部分の専用使用権としてバルコニーを利用することとなり、1.避難路としての利用を妨げたり、2.建物の美観を損なうような使用方法は行い得ないこととなります。本件判決の事例では、バルコニーにパラボラアンテナを設置したというものであり、設置方法・設置時期・アンテナの大きさなどから、規約で定められた「バルコニーの通常の用法」の範囲内か否か、かなり微妙な事案ですが、後に共同アンテナの設置がなされたことや、バルコニーの共用部分性を考慮して被告に撤去を命じており、参考になる事例です。
「管理組合の対応」
1. 規約で共用部分の範囲を明確にしておくこと、2 .同じく共用部分の専用使用の方法を明確にしておくことがまず大切なことですが、3. バルコニーなど共用部分とされるところに物置などを設置する区分所有者がいることが分かった場合には、できるだけ早く対応しその撤去を求めていくことが重要です。というのも、マンションによっては一定期間放置してしまったために、多くの区分所有者が同様の物置などを設置してしまう事態に発展しているところもあり、そうなってしまえば現状に戻すことが困難となり、結果的に避難通路の確保がされないなど深刻な問題に発展しかねないからです。どうしても撤去勧告などに従わない区分所有者がいるときは、本件判例のように総会決議・提訴なども考慮すべきと思われます。