最高裁判所第2小法廷 平成16年4月23日判決(金融・商事判例1196号13頁)
平成14年(受)第248号管理費等請求事件
平成14年(受)第248号管理費等請求事件
- ●事件の概要
- 本件は、マンションの管理組合Xが、本件マンションの区分所有者であるYに対し、本件建物の前の区分所有者が延滞していた8年前からの管理費及び特別修繕費の支払を求めた事案です。
Yは、管理費等の請求債権は民法169条の定期給付債権に当たるので、本件管理費等のうち弁済期から5年を経過した分は時効消滅しているなどと主張して、管理組合Xからの請求を争いました。
第1審判決は、管理費等の額が毎会計年度ごとに総会の決議で決定されることを理由として、管理費等は定期給付債権に当たらないと判断し、また、区分所有者側の権利濫用の主張も排斥して、Xの請求を全部認めました。
第2審の高裁判決は、第1審の判決理由に加え、管理費等の支払いに短期の消滅時効にかからせる必要性は乏しく、かつ、適当でもない、むしろ、不当な結果を招くおそれがあるとして、第1審判決を支持し、Yの控訴を棄却しています。 - ●問題点
- マンションの管理費及び修繕積立金の請求債権の時効消滅は何年か。民法169条(定期給付債権の短期消滅時効)の適用の有無。
- ●判決内容
- 判決では、修繕積立金を含めたマンションの管理費等については、民法169条所定の定期給付債権に該当するため、弁済期から5年経過した部分につき、消滅時効が完成していることから、その部分の請求について、請求を棄却しました。
すなわち、判決では、「本件の管理費等の債権は、前記のとおり、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは、上記の結論を左右するものではない。」としました。その上で、Xの請求は、本件管理費等のうち、時効完成分を除いた金額等の限度で認められると結論付けました。
なお、本判決には、修繕積立金につき、短期消滅時効にかからないような適切な方策が立法措置を含めて十分に検討されるべきとの補足意見も付されています。 - 【判決の意味】
- これまで、マンション管理組合の管理費等の消滅時効の期間については、民法169条の適用の有無により、5年時効説と10年時効説が対立してきました。そのため、実務では、何年で時効になるか明言することができず、その対応において混乱が生じていました。しかし、今回の判決によれば、一般的な管理組合の管理費等については、本件と同様に判断してよいと考えられますので、今後は5年時効説が定着するものと考えられます。
◆ 管理組合の今後の対応 ◆
今後の立法についてはともかくとして、今回の判決により、管理費等の消滅時効は5年であるということがはっきりしましたので、管理組合としては、これを前提に対応しなければなりません。そのため、管理組合では、これまで以上に消滅時効に配慮し、滞納管理費等の早期回収を心がけることが大切となります。普段から滞納が発生した場合の対応策を準備しておき、迅速に処理できる態勢を整えておく必要があるでしょう。
特に滞納期間が4年を過ぎると、訴訟提起等の法的手続きを採るかどうかを決断する必要がでてきますし、その場合、管理規約によって総会あるいは理事会の承認を要することになりますので、十分な注意が必要となってきます。