A 最高裁判所平成10年11月20日判決(判例時報1663号102頁)
B 東京高等裁判所平成13年1月30日判決(判例時報1810号61頁)
B 東京高等裁判所平成13年1月30日判決(判例時報1810号61頁)
- ●事件の概要
- Yは、住居及び店舗併用型マンションを建築分譲したが、自らも店舗部分に区分所有権を取得し、 敷地である駐車場(以下「本件駐車場」という)、塔屋外壁、 屋上及び非常階段踊り場等に無償の専用使用権の設定を受け、 これらを使用してきた。本件は、マンション管理組合Xが、規約を変更した上、Yの専用使用権につき、 一部を消滅させ残部を有償化する決議(以下「消滅決議」及び「有償化決議」という)をしたとして、 Yに対し、消滅部分の使用差止め(1)と有償化部分の使用料支払(2)等を求めた事案。
差戻し前の控訴審判決(東京高等裁判所平成8年2月20日判決)
消滅決議について、 当該専用使用権を消滅させる必要性は同権利を必要としているYの利益を上回るものではないから Yの承諾なく消滅させることはできないとし、 有償化決議についても、Yは当該専用使用権に関し管理費等相応の経済的負担をしており、 その上に使用料を徴収することはYの専用使用権に「特別の影響」を与えるので、 Yの承諾がない決議は無効であるとして、Xの請求を棄却。 - ●問題点
- (1)ある専用使用権につき、当該専用使用権者の承諾なく、これを消滅させたり、 無償だったものを有償にすることができるのか。
(2)どのような場合、「一部の区分所有者の権利(専用使用権)に特別の影響を及ぼすべきとき」 (建物区分所有法31条1項後段)とされ 「その承諾を要する」のか。 - ●判決内容
- 判決A:直接に規約を設定・変更等する場合だけでなく、 規約の定めに基づき総会決議をもって専用使用権を消滅させたり、これを有償化する場合も、 当該専用使用権者が受ける不利益が受忍限度を超える場合は建物区分所有法31条1項後段が類推適用される。
消滅決議について、(a) Yが分譲当初からマンション店舗部分でサウナ等営業をしており、 来客等のため各駐車場の専用使用権を取得し、 (b) 残部の駐車場だけでは営業活動の継続に支障を生ずる可能性があり、 (c) 他の区分所有者らは駐車場・駐輪場がないことを前提としてマンションを購入した等の事情 (以下「本件分譲経緯」といいます)を考慮すると、 Yが一部駐車場の専用使用権を喪失することで受ける不利益は受忍限度を超え、 「特別の影響」を及ぼすから同決議は無効であるとした。
有償化決議について、専用使用権の有償化は、 (ア)一般的に当該権利者に不利益を及ぼすが、 (イ)有償化する必要性・合理性が認められ、且つ (ウ)設定された使用料が社会通念上相当な額であれば、その者は有償化を受忍すべきであり、 「特別の影響」を及ぼすものではない。設定された使用料が社会通念上相当でなくとも、 その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認められるときは、 (エ)特段の事情がない限り、その限度で「特別の影響」を及ぼすものではないから決議は有効である。 原審判決は、(ア)だけで、(イ)ないし(エ)を検討することなく、 「Yの承諾がないから決議は無効」としたとして、(2)に関する部分を破棄し差戻した。
判決B:差戻しを受け、 (ア)につき前記「差戻し前控訴審判決」中「特別の影響」を与えるとした理由部分を挙げ、 (イ)につきYが長年(昭和48年〜) 共有部分を無償使用し他の区分所有者との関係で公正を欠いているから有償化する必要性・ 合理性が認められるとした。しかし、 (ウ)につき本件分譲経緯として、他の区分所有者らにおいて、 Yが営業に必要な駐車場等設備を自己負担で設置し、 その敷地・床部分を無償使用することを承知の上マンションを購入している点を付加し、 現にYが無償で設備を使用してきたことも考慮し、 通常の賃貸借賃料相場を基準に使用料を課するのは過大な要求であるとして、 事実上営業断念という事態を招来しているから有償化決議による使用料は社会通念上相当な額とは認め難いとした。 また、これら各設備はYの営業上必要で、管理をYが行っており、 他方、Yの専用使用による他の区分所有者らのマンション利用への支障がないという事情も考慮し、 各施設につき、社会通念上相当な額と認められる額を認定し、 この限度で有償化決議は有効(Yの承諾は不要)とした。 - 【判決の意味】
- 分譲時、特定の者が無償又は低額の専用使用を取得したが、 長年経過するうちに駐車場不足等の事情が発生して、廃止や条件変更が問題になることがあります。 このような場合、少なくとも一定範囲で有償化又は増額できることを、これら判決は示唆しています。 その方法につき、判決Aは、最高裁判所平成10年10月30日判決を引用し、 直接規約を設定・変更等しなくとも、 規約の定めに基づいて総会を開催し4分の3以上の多数決議をもって専用使用権を変更等することが可能であるとしました。 但し、権利を変更等される者の不利益が受忍限度を超える場合は承諾なしにはできません (建物区分所有法31条1項後段類推適用)。 次に、一方的に変更等できる基準である受忍限度につき、判決Aは、 (ア)当該権利者の不利益と、 (イ)廃止・変更する必要性・合理性とを比較衡量し、 (ウ)社会通念上相当な使用料であれば、変更等を受忍すべきであるとしました。 具体的には、その分譲経緯、専用使用目的(営業活動等)の継続に支障を来たす可能性、 他の区分所有者らが当該専用使用を前提にしていたか(駐車・駐輪場の不存在等を甘受し、 代わりに分譲価格を低額にした等)を確認します。 更に、判決Aは、決議による使用料が社会通念上相当でなくとも、 (エ)特段の事情がなければ、社会通念上相当と認められる限度で決議が有効になるとしています。 差戻審である判決Bは、長年の無償使用があれば有償化の必要性・合理性は認められるとしながらも、 社会通念上の相当額について、近隣相場賃料ではなく諸般事情を踏まえかなり低額を認定しました (ex.駐車場につき避難通路になっていて他への賃貸が困難といった点も考慮して、 相場の約5分の1程度の額を認めています)。
◆ 管理組合の今後の対応 ◆
本件事例と同様の分譲経緯がある場合、 4分の3以上の多数による総会決議で無償(又は低額) の専用使用料をある程度アップさせることは可能ですが、 これを廃止したり、相場賃料まで引上げることは困難です。このような場合、 本件事例のように強硬手段に出る(消滅や近隣相場額への変更を決議する)よりも、 まずは「周辺相場は月額○○○円だが、 そこまでの使用料設定は考えていないので・・・」と円満交渉を持ち掛けるべきでしょう。 これに対し、当該専用使用権者を優遇すべき特段の経緯もないのに、 長年不合理な特典(無償、使用料低額等)が与えられてきたという場合、 まず強い態度で廃止や条件変更を申し入れてみて、相手方が納得しないときには、 消滅決議や近隣相場による有償化・ 増額決議をしたうえ本件事例のような訴訟を提起していくのが合理的な対応策となります。