出席者
大西 一嘉
神戸大学工学部 助教授
廣田 信子
(財)マンション管理センター
総合研究所 主席研究員
樫原 健一
(社)日本建築構造技術者協会
関西支部 技術委員長
岡田 勇
高取台サンハイツ管理組合法人
事務局長
大西 まず高取台サンハイツ管理組合法人事務局長の岡田勇様から話題提供をいただきまして、それをふまえてパネルディスカッションに移っていきたいと思います。
岡田 私どものマンションは神戸市の長田区にございます。震災で相当火事があった長田区です。1974年に竣工、8階建ての90戸です。1995年の阪神淡路大震災を経験し、その後の防災に関する取り組みをご紹介させていただきます。
まず震災でライフラインが停止しました。電気は早く回復しましたが、水はひと月ぐらい。ガスに至ってはふた月ということで、大分苦労しました。建物は一部損壊です。廊下のひび割れ、花壇・コンクリートのひび割れなどはボランティアで補修をしております。一番問題であったのが、下水管の破損ですね。横引管が折れていることに気がつきませんでした。折れたために汚物や汚水が溜まってくる。ある日突然一番下の住戸のトイレで逆流する。悲惨ですよ。
こういったことを通じまして、安全・安心に対する住民の意識が非常に高まりました。それを受けて、安全・安心に対する対策をいろいろ推進しております。
いくつかありますが、まず隣接建物との防災協定です。隣接する建物はボーリング場や幼稚園がございます。ボーリング場には屋内消火栓があり、それを私どものマンションで火事があった時は使わせてもらう話をしました。幼稚園の方は、池田小学校の事件もあり、入口が一つしかないため、我々のマンションとの敷地の境界に避難経路となる避難の扉を造りました。
次に住民の緊急連絡先の把握です。住民の情報を集めるのはなかなか難しいんですけれど、我々は緊急時以外には開封をしない、誰も見ないということで、99%の協力を得られております。今までに使ったのは1回のみです。
それから耐震補強の実施です。マンションが傾斜地に建つため、ピロティの部分がございまして、震災で若干の被害を受けました。住民の不安もあり、神戸市の簡易耐震審査を受け、400万の費用をかけて、ピロティのところに耐震壁を造りました。それから防犯対策の推進です。廊下側の窓の面格子、これを外した泥棒がおりまして、防犯が必要だということで、チェーンゲートや防犯カメラの設置を進めております。
震災から学んだことは、人と人とのつながりの大切さです。そこで使わなくなっていた管理人の部屋を改修をして、多目的に使える部屋にし、敬老会や文化祭をやっています。90戸ありますと、いろんな方がいらっしゃる。思いの違う方がいらっしゃるのも事実です。そういう方々を一緒になって、安全の取り組み、人の繋がりの取り組みをやっていこうという努力をしております。
大西 ありがとうございます。実は、あれほどの被害を受けた神戸でも、なかなか耐震補強の工事が進んでいないのが実情です。岡田さんのところのように耐震補強する例はあまりありません。日頃からどのようなことを考えておくことが、防災安全の取り組みで有効なのかを含めて、マンション管理センターの廣田さんの方からコメントをいただきたいと思います。
廣田 マンションの現状を確認すると、マンションは今、全国で466万戸、1200万人。つまり日本国民の10人に1人がマンションで暮らしています。さらにここ数年は、毎年20万戸が新しく作られています。このペースだと、25年経つと、マンションのストックは今の倍になってしまいます。一方、買う人の方は、もうすぐ人口頭打ちでどんどん減っていきます。さらに築30年以上のマンションは今でも44万戸、10年後には140万戸、そういう状況です。新しく購入する人は減るのに、マンションストックはどんどん増えていくことになります。
調査報告を見ますと、住んでいる人も変わってきています。世帯主の高齢化が進んで、約60%で世帯主が50歳代以上。しかも世帯人数も減り、1〜2人の世帯が42.8%。これは若い単身者や夫婦の方が増えたというよりは、お子さんが育って出られて、ご夫婦二人が残られた。あるいはお一人が亡くなられて高齢者の一人暮らしになった。そういう世帯が増えていることを表しています。そして住んでいる人も永住意識が非常に高まっています。特に高齢の方はこのままずっとこのマンションに住もうという方が大変多くなっています。
ということは、これからのマンションは、ストックとしての価値をどのように維持していくのか。それから、居住者の高齢化にどうやって対応していくか。永住化に耐えるマンションコミュニティをどう育成していくか。こんなところが大きなテーマになるんじゃないかと思います。
マンションがきちんと管理されているか、そのコミュニティがしっかりしているか、これが外からみてもわかるような仕組みはないか、ということで、実は私どものマンション管理センターで、今年、「マンション履歴システム」がスタートします。
マンションの管理状況、例えばコミュニティはどれくらい充実しているかとか、管理組合運営が上手くいっているか、それから修繕積立金をきちんと積んでいるか、どんな修繕履歴を持っているかということを、インターネット上に登録してもらって、管理組合の運営に生かしてもらい、そして外から見たとき、ここは頑張っているマンションだということが分かり、新たにマンションを探そうという人にも役立ててもらおうというしくみです。さらにはそういうことがマンションの価値にちゃんと繋がっていってくれればと思っています。
大西 国交省の委員もされている樫原さんから、耐震改修について国がこれからどういう方向を目指そうとしているのかについて、コメントをいただければと思います。
樫原 国土交通省が「住宅・建築物の地震防災推進会議」を2月から6月にかけてやりまして、その概要がホームページにも載っています。まず「住宅・建築物の耐震化の促進のため実施すべき対策」として、「支援策の充実」があります。全国の市町村に相談窓口を設け、行政と建築士、我々のような団体も協力して、耐震診断・改修に係る情報提供をしようというものです。
また、耐震改修促進法が変わります。現状では、戸建住宅やマンションは、何も規定がございません。見直し案は、病院、百貨店、学校なんかは、耐震診断改修計画を出してもらって実行してもらう。しなかったら何らかのペナルティが科せられる。戸建て住宅、マンションに関しては、密集市街地等の住宅について、指示(勧告)が出てくる可能性があります。
私自身は、「地震保険の活用推進」がひとつのポイントになるかと思います。といいますのは、住宅ローン融資の減税はあまり実効性がない。そこで地震保険(の掛け金)をもう少し安くしようというのが今回の提言です。地震保険にマンションの皆さんが入っていただきますと、例えば耐震改修をすると割引される。そうなると、保険金を割り引くために改修しよう、という話がしやすくなるんじゃないかなと思います。
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