大西 ありがとうございます。いずれ具体化される国の施策の内容を待ちたいと思います。ところで岡田さん、周辺の自治会とのつながりという点で、何か工夫されている点があるんじゃないかと思うんですが。
岡田 正直いいまして、それほどできていないというのが現状です。ただ、先ほどスライドの中で、夏祭りの写真がございました。うちの敷地の中でやりますけれども、カラオケをやるわけですから、近所に非常に迷惑をかけています。ですから、毎年、ビラを配って、ご了解をいただくということをやっております。以前から近所の子どもとか、皆さん来られて、実費をいただき参加頂いているという現状でございます。
大西 廣田さんへ、私から質問をさせて頂きたい。履歴システムのご紹介がこれからのポイントになってくると思うんですが、一方で、履歴を蓄積していくことは、情報がどんどん増え続けるということになり、こんどは、誰も判断できなくなる。この辺りは専門家の支援も必要じゃないかなという気がするんですけども。
廣田 この履歴システムの登録項目は、3種類の視点で書かれています。一つは、積み重ねていく情報。例えば、今年はここを修繕しました。1年間の情報だったら書けますよね。毎年登録していくことで、20年たったら20年分の歴史が残っていく。いつ管理費を改定したとか、規約を改正したとか、管理会社を変更したとか。1年間だったら誰も忘れていないから書けますよね。ところが10年前とかになると、記憶が曖昧になってしまいます。そういうのは積み重ねていく。そういう視点で選ばれています。
二つ目は管理組合の管理状況をチェックするのに使う項目。例えば管理組合の運営などの情報は毎年上書きしていく。総会の出席率はどうですか、理事会はどれくらい開いていますか。保険はどんな保険に入っていますか。そういう情報は、まず最初の登録のときにチェックをして、そこで、うちはこの保険が足りないなとか、図面がどこにあるか分からないから探しておこうとか、次の行動目標にしてもらおうというものです。総会の出席率が低かったら、次はちょっと頑張って呼びかけると数字が良くなる。2年目の診断の時には、新しい情報でまた診断させてもらい、次の目標につなげてもらおうという視点で選ばれた項目です。
もう一つは、例えば、新しくマンションを探している人が見たときに、このマンションはペットが禁止なのかとか、バルコニーに衛星放送のアンテナをつけてもいいのかとか、もともと何をして良くて、何をしていけないのかを、知っていて入ってもらわないと、管理組合が苦労しますよね。外から見た人にぜひ知っておいてもらいたい情報という視点。この3つがあります。
大西 それではここで、参加者の方からたくさん質問をいただいております。一つは、診断とか耐震の改修をする際、良い専門家を見つける方法はないかということ。もう一つは、新しい免震とかを含めた耐震補強技術は上物をどうするかという話ですが、むしろ地盤が弱いとか、基礎との関係で耐震補強工事を考えないといけない点があるのでないか、というご質問を複数の方から頂いております。
樫原 良い専門家を選ぶと言っても、要は医者と同じで、相性だと思うんですね。依頼される人との信頼関係の方が大きいと思います。資格はみんな同じですから。我々は1級建築士をとったうえで、建築構造士の認証をしています。これが全国に3500名ぐらいおり、エイペックエンジニアというか、要はアジアでも通用する、外国で通用する資格です。それでもいろんな人がいますから、選ぶのは非常に難しい。ですから、日本建築構造技術者協会の方に問い合わせをして頂いて、いくつか当たってみることだと思います。
それから基礎の話ですね。地盤の条件はやはり考慮しなければならないと思います。先ほど説明不足だったんですけども、オイルダンパーとか、粘弾性ダンパーなど柔らかいもので補強すると、壁とか筋交いなどの硬いものよりも、基礎に対する影響が最小限に抑えられます。ほとんどゼロに近いため今より基礎に負担が多くかかることはありません。基礎は基礎で、一部分ノッチとか切りかけを入れて変形しやすいようにするとか、いろんな新しい工法も出ています。ただし、まだ一般的な工法になっていないし、費用もかかりますので、マンションでというのは難しいかなと思います。
大西 残る質問は、私と廣田さんの方に出ています。一つは、建物の寿命についての質問です。耐用年数を延ばして長く住めるような再生型の修繕について廣田さんから少しコメントいただければと思います。
廣田 もう消費財のように取り壊して、住宅を新しく建てるという時代ではありません。マンションは、きちんと維持管理すれば持つと思います。ご質問では、60年、70年を望んでいるということですが、ヨーロッパでも、アメリカでも築100年という鉄筋コンクリートの集合住宅もあります。ただし、生活をしていくうえで、設備なんかは現状維持していくだけでは古くなってしまいます。それはやはり計画を立てて、少しずつ新しいものにしていく再生工事に取り組んで、それぞれの時代に耐えるように少しずつグレードアップさせていくことで、60年、70年はもたせられると思いますので、頑張って管理をしていって頂きたいと思います。
大西 時間がほぼ予定通り来てしまいましたので、いくつかまだ質問が残っていますが、これで最後にさせて頂きたいと思います。ご質問の中で、正常化の偏見(自分には不幸なことは起こらないだろうという楽観的な考え方)を克服するアイデアはないのか、というのを頂いております。このへんについて少しお答えをしながら、まとめに替えさせて頂きたいと思います。
一つは、危機に対して、よく見えないリスクを、できるだけ見える形にすることが重要かと思います。住宅の性能表示制度も始まっていますし、中古住宅についても、構造的な性能をランク分けして表示する。そういうことも危機管理の上では情報提供として重要だと思います。
それから、地震保険という話しが、樫原さんからありましたけれども、地震保険は、リスクマネジメントの中でも非常に重要な手法であり、危機の移転により財政的な価値に変えるわけですね。リスクを地震保険という形で金銭化する。リスクを目の前に示すという意味でも大事だなと思います。
3点目としては、コミュニティということがありましたけれども、いろんな取り組みをできるだけ楽しみながらやるような工夫をしていくことだと思います。
最後に、耐震改修が、今日の大きなポイントになっていたと思います。これからどういうことをめざしていったらいいのか。2つの方向があると思います。
まず改修の公的な支援策を拡充させていく根拠となり得る規定として重要なのが憲法第25条であり、生存権とか社会権が規定されております。つまり、安全な建物に住むというのは、国民の権利として要求できるのではないかという考え方です。
一方、規制強化という観点でみると、耐震改修促進法では、個人住宅とマンションは勝手にやりなさいとばかりに、対象から実質的に除外されている。しかし公的な関わりが強まっているマンションで、本当にこれでいいのか。車には車検制度があります。車検をうけなければ車を維持することができません。住宅にはそういうものがないわけです。住む以上は、一定の性能をもっていなければ住めないような形が、本来あるべきだと思います。売買時には、そういった検査制度もいるのではないか。ですからアメとムチの対策が、うまく揃っていけば、マンションの耐震改修をしていくうえで、非常に有効でないかと私は考えております。
今日は、長時間、最後までおつきあい頂きまして、本当にありがとうございました。
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