元木:マンションの社会ストックが非常に多くなり、それを大切にしておくことが重要なことです。全国のマンションは約400万戸、国民の12人に1人がマンションに住んでおり、わが国の住宅の非常に大きな存在になっています。しかし、集合住宅に住む習慣が日本にはなかったため、集合住宅のルールになじんでおらず、また老朽化するマンションがどんどん増えるという問題があります。
当面の重要課題は、大規模修繕を適切にやっていくことに尽きると思います。マンションには区分所有に起因するいろんな問題があります。法律的な意味で「マンションとは何か」ということを紹介していただきたいと思います。
松村:マンション関係の法律と現実のギャップは大きいと感じます。マンションには快適、安全、プライバシーの保証といった専用部分の利点のほか、共用であり、共住であり、共同管理でもあります。昭和58年の区分所有法の改正では、マンションの共同管理に注目し、居住者の共同性を強く打ち出し、居住者は管理組合に入り、共同の利益に反して使用してはならないとしています。
元木:そもそもコンクリートでできているマンションがなぜ大規模修繕が必要なのでしょうか。
西野:建物はできた時から劣化が始まります。コンクリートはアルカリ性で、時間とともに中和の方向に進みます。中和が進んでアルカリ度がプラス・マイナスゼロになってやがて酸性の方向に進み、中の鉄が酸化しサビが生じ、体積が膨張してコンクリートを破壊してしまいます。マンションは建設されて10年くらいで修繕することになりますが、劣化も時間の経過とともに様相が違い、10年、20年、30年という節目ごとに修繕の内容も違ってきます。屋上防水も10年ごとに張り替える必要があり、20年から30年経つと給排水管関係も問題になります。長期修繕計画を立て、それを適切にやっていくことが重要です。マンションのストックが非常に多くなり、これからは建物評価が一般化してきます。きちんとした修繕計画によって管理されたマンションとそうでないところでは評価に大きな差が生じてきます。
元木:大規模修繕は大変な仕事だと思いますが、どの辺が大変なのか話してください。
西野:入居者の修繕に対する認識には“温度差”というものが、どこのマンションにもあります。どれだけ共通した認識が持てるかが全てではないかと思います。場当たり的に対処するのではなく、的確な修繕計画を立てることが大切で、そのために、まず現況調査をすることが必要です。管理組合の皆さんには、事前に入居者がどんな点に、問題を感じているかアンケートをとっていただきたいと思います。また、日常のメンテナンスにかかわる部分と、構造、躯体にかかわる問題に分けて修繕計画を立てていかねばなりません。とくにマンションは工事代金の中で足場代が大きなウエートを占めますので、いくつかの工事項目を束ねてやれば効率よく工事ができます。後は、管理組合の中で合意形成をいかに作り上げるかが重要です。
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